TV会議 衝突勉強セミナー12
今期セミナーのコンセプト[勉強会の目的]
・「衝突研究をする以上、知っておくべき教養」の全体像を提示し、衝突勉強会に参加する学生全員の知識レベルを、その水準まで引き上げる。 ・「全員が主体的に参加できて、勉強になる」会にする。 [内容] ・ 全5回シリーズ。 ・ 各回に一つの「衝突に関する大テーマ」を設定し、その中で「惑星科学の中で鍵となる問い」を(例えば一回につき3つ)挙げる。 ・ それに関する論文を読みレビューする。このとき余りに細かい事まで触れることはせず、「問いに対する答え」に直結する部分のみ上手くまとめて紹介する。 (これは、言うほど簡単なことではないが、それ自体がトレーニングでもある) ・ 毎回の勉強会終了後には「問いに対する答えと、それに至る論理の概略」を全員が共有出来ているレベルにまで参加者の理解を引き上げる。 ・ 全5回の勉強会が終了した時点で、参加者全員が今回定めたテーマに関して俯瞰的に理解できていることを目指す。 ・「とりあえず論文を読む会をやったけれど、最後に何も残らなかった…」ということを防止するために、最後に発表者全員のスライドを連結して、 「これさえ理解しておけば衝突研究に関する大体のイメージがつかめる」というような一つのファイルや冊子にしたい。 勉強会参加者全員の共同作業の結果として「明確なアウトプット」を出す事を目指す。 [会のイメージ] ・ 最初の10分 世話人による「大テーマ」と、「科学的問い」の説明 ・ 一人当たり30分×3人で、「問い」に対する答えと「それに至る論理」を簡潔に説明する。 ・ 論文を読み、うまくまとめて発表する能力を涵養する目的で、発表者は主に修士の学生を想定。博士の学生がそれを補佐する。 ・ 主に読んで欲しい論文1本(◎印)と、参考になりそうな論文(○印)数本を博士の学生が提案する。 ・ なるべく二時間以内で終了。 [総括] ・アンケート結果などのまとめ・・・ こちら 第1回日時:11/29 (木) 16:30-18:30
テーマ:衝突天体のプロパティ・起源 <問い1: 地球-月系には何が降ってきたのか?> ◎Strom, R. G., R. Malhotra, T. Ito, F. Yoshida, and D. A. Kring (2005), The origin of planetary impactors in the inner solar system, Science, 309, 1847-1849. 紹介者:長 勇一郎(東大)・・・ 発表資料 要旨:太陽系 内惑星に残されたクレーターと小惑星のサイズ頻度分布の比較から、約38億年前までの衝突天体はメインベルト小惑星由来であったが、その後現在に至るまでの衝突天体は地球近傍小惑星由来であることが示唆された 。 <問い2: 地球-月系へのインパクトフラックスはどのようにして推定されているのか?> ◎Ryder, G. (2002), Mass flux in the ancient Earth-Moon system and benign implications for the origin of life on Earth, J. Geophys. Res., 107. ○Neukum, G., B. A. Ivanov, and W. K. Hartmann (2001), Cratering records in the inner solar system in relation to the lunar reference system, Space Sci. Rev., 96, 55-86. 紹介者:巽 瑛理(東大)・・・ 発表資料 要旨:インパクトフラックスは単に衝突の歴史を知るだけでなく,衝突の増減によって太陽系の変化を知る大きな鍵である.インパクトフラックスを議論する際にはクレーター密度を取り上げることが多いが,本論文ではインパクトフラックスの中でも特に質量のフラックスに着目する.単純にクレーター密度から算出される質量フラックスだけでなく,大規模なベイスンについてプロジェクタイルの大きさを推算することにより見える,特異なフラックスの増減について議論する. <問い3: 後期重爆撃期、Nice modelとは何か?> ◎Gomes, R., H. F. Levison, K. Tsiganis, and A. Morbidelli (2005), Origin of the cataclysmic Late Heavy Bombardment period of the terrestrial planets, Nature, 435(7041), 466-469, doi:10.1038/nature03676. ○Tsiganis, K., Gomes, R., Morbidelli, A. and Levison, H. F. (2005), Nature 435, 459-461 紹介者:松本 恵里(神大)・・・ 発表資料 要旨:月の岩石学の研究から、惑星形成からおよそ8億年後にクレーター生成率が一時的に急上昇する時期があっ たことが示唆されている。それは後期重爆撃期として知られている。これは木星と土星の1:2平均運動共鳴の影響であると考えられるが、従来の惑星 形成論 では巨大惑星の形成や時期が説明できない。そこで、ニース・モデルに最適な条件を適応させることにより、月に大量に微惑星が衝突する時期を再現できた。 第2回日時:12/20 (木) 16:30-18:30
テーマ:衝突体の大気突入過程 <問い1: 大気貫入中に破砕された衝突天体は地表面でどんなサイズ分布をとるのか> Hildebrand et al., 2006, The fall and recovery of the Tagish Lake meteorite, MAPS, Nr3, 407-431 紹介者:羽村 太雅(東大)・・・ 発表資料 要旨:Tagish Lake隕石は最も弱い物理特性を持っている、最も始原的な隕石なので、初期太陽系天体の起源と物理特性を知る上で重要である。このTagish Lake隕石の大気通過時の観測及びその破片回収・分析・解析を俯瞰的に記載した本論文の中から、特にサイズ分布について学ぶ。 <問い2:流星の観測から何がわかるか> Kasuga et al., 2006, Thermal desorption of Na in meteoroids: Dependence on perihelion distance of meteor showers, A&A, 453, L17-L20 紹介者:青木 隆修(神大)・・・ 発表資料 要旨:流星体になる塵は母天体の彗星から放出される。その後、星間空間を漂っている間に熱的進化が起こり、その母天体から組成が変化すると考えられる。しかし、比較的昇華しやすい流星体中のNaの含有量を分光観測で測定すると、近日点距離が0.14AU以上のダストトレイル由来の流星群にNaを失っている明確な証拠はなかった。 第3回日時:1/31 (木) 16:30-18:30
テーマ:衝突過程 <問い1: 複雑クレーターはどのような形状をしていて、それはどのように形成されるのか?> Collins et al. 2008, Mid-sized complex crater formation in mixed crystalline-sedimentary targets:Insight from modeling and observation. Meteoritics & Planetary Science 43, Nr 12, 1955–1977 紹介者:木内 真人(神大)・・・ 発表資料 要旨:これまでの衝突クレーター形成に関する研究は標的が均質なものが主だったが、実際の標的はそうではない場合が多い。クレーター形成における標的の特性やクレーター崩壊の構造を理解する上で、地球上の中サイズのクレーター(直径15-30km)に焦点をあてる。このサイズは複雑クレーターであるのに十分な大きさであり、細かい調査やモデリングに十分な小ささである。本論文では、標的の岩質がそれぞれ異なる3つのクレーターについて観測と数値モデルの結果を比較している。モデルでは衝突エネルギーは同じと想定し、標的は二層で下部に結晶質岩、上部に堆積岩とする。その結果、それぞれのクレーターの構造の違いは、衝突前の標的の堆積岩の厚さの違いによって説明できることわかった。 <問い2: 衝突クレーターのスケーリング解析とは?> Elbeshausen et al. 2009, Scaling of oblique impacts in frictional targets: Implications for crater size and formation mechanisms. Icarus 204, 716–731 紹介者:河本 泰成(神大)・・・ 発表資料 要旨:隕石衝突は斜め衝突が支配的であるが、衝突角度の影響はよく分かっておらず、スケーリング則でも考慮されていない。クレーター形成過程の広範囲の数値研究を行うため、本研究ではiSALE-3Dという3次元流体計算コードを開発した。これを用いて斜め衝突クレーター形成に関する多くの数値実験を行い、衝突角度と標的の摩擦係数がクレータリング効率に与える影響を調査した。その結果、(1)衝突角度30°以上での惑星スケールの斜め衝突は現在のスケーリング則で記述できること、(2)クレーター質量は衝突角度とともに正弦関数的に減少すること、(3)0.7より低い摩擦係数の物質への衝突では、衝突速度の垂直成分でクレーターサイズが決まるという推定が適用できないこと。および(4)摩擦係数が増加するとクレーターは小さくなり、インパクターのエネルギーより運動量によってコントロールされる形成過程となる、ということが分かった。 第4回日時:2/28 (木) 16:30-18:30
テーマ:エジェクタ <問い1: ejectaの放出量と放出速度はどう記述できるか> Housen and Holsapple, 2011, Ejecta from Impact Craters, Icarus 211(1), 856-875. 紹介者:桑原 秀治(東大)・・・ 発表資料 要旨:Ejectaの速度分布に関する知見は天体の衝突現象の理解に重要であり、これまで室内実験を中心としたスケーリング則が構築されてきた。一方で、従来のスケーリング則ではレゴリスが存在しないと予測されるEros(15km)などの小天体でレゴリスが発見される等、スケーリング則におけるEjectaの挙動はいまだに把握し切れていないという問題がある。本論文ではこれまでに報告されたEjecta速度分布に関する実験データをまとめ、従来のスケーリング理論の枠組みでEjectaの速度分布がどのような衝突条件によって影響を受けるのかを議論する。 <問い2: 実験的に予測されたejectaの放出過程は天然の衝突でも確認できるのか> Schultz and Wrobel, 2012, The oblique impact Hale and its consequences on Mars, Journal of Geophysical Research 117(E), 4001. 紹介者:青木 隆修(神戸大)・・・ 発表資料 要旨:とても浅い角度での衝突イベントは極めてまれで特別なものであるが、現在の惑星表面にはその証拠である楕円クレーターが保存されている。浅い角度の斜め衝突は垂直衝突と異なり、速度が大きく放出角度が小さいエジェクタと爆風により、流し去られたり集められたりした表面の物質が見られる。火星上の楕円Haleクレーターを作った衝突に似せた3次元衝突シミュレーションを行った。その結果、浅い角度の斜め衝突を示すパターンがみられた。Haleクレーターの衝突の進行方向にある隕石が破片になって散らばった地域(strewnfield)には著しく低いアルベドを示す堆積物や風による条線が見られる。それらのことから火星上の他の黒いガラス質strewnfieldも衝突によって起こった風によるものかどうか判断できるかもしれない。 第5回日時:3/14 (木) 16:30-18:30
テーマ:衝突によって引き起こされる環境変化 <問い1: 地球大気と衝突との関係は?> Zahnle et al., 2010, Earth's Earliest Atmosphere, Cold Spring Harbor Perspectives in Biology, 2(10), pp. a004895–a004895, doi:10.1101/cshperspect.a004895. 紹介者:松本 恵里(神戸大)・・・ 発表資料 要旨:地球は生命居住可能な惑星で、生命の起源として最適な場所である。地球大気・海の起源に関係するとされる原始地球の環境条件を議論する。月を形成した衝突がキーとなり、それは、短時間で地球を生命居住不可能な場所にした一因であり、地球のその後の進化の境界条件も与える。もし生命が地球外から来たのではなく、地球で発生したとすると、この衝突後だろう。そして、衝突後から月が形成されるまでに、おそらく地球のバルク特性と大気・海の全組成やサイズは決められた。月形成衝突でマントルから揮発性成分が抜けたことも興味深いことの一つである。その影響で生じた大気は衝突脱ガスによるもので、インパクターを反映した組成を持つ傾向にあり、またそれはほぼ例外なく強く還元し、揮発性物質に富んでいる。その結果として、一酸化炭素とメタンが定常状態で必ずしも安定ではないが、長い間存在し、大気の要素であった可能性が高いことを示す。 <問い2: 天体衝突時に物質はどのような挙動を示すのか?> Melosh, 2007, A hydrocode equation of state for SiO2, Meteoritics and Planetary Science 42(1), 2079-2098. 紹介者:古賀 すみれ(東大)・・・ 発表資料 要旨:衝突過程の一般的な研究手法として数値シミュレーションは発展しているが、超高圧・高温における地質物質の熱力学の表現は遅れている。地質物質に対する良いEOSモデルがないことが一因である。本論文では、本来は金属の記述に開発されたEOS計算プログラム「ANEOS」の2つの欠点を改良し、熱力学的特性の研究が進んでいるSiO2の、衝突過程で重要な圧力・温度範囲での熱力学特性を近似する。この改良は、衝突による溶融・蒸発過程の理解や、クレーターからの高速度初期Ejectaの質量・物理状態のより正確な計算に必要な一歩である。 updated: 2013/3/14 |