TV会議 衝突勉強セミナー15[前期]
今期セミナーのコンセプト今年度(平成27年)の勉強会は比較惑星学的視点で衝突クレーター形状の多様性とその成因について,学ぶことを目的としています.
前期は「最新の探査・観測からわかったクレーター形状の惑星間比較」に焦点を当てて論文を選定しました. 昨年度と同様に学生を主な対象としています.ポスドク以上の研究者の皆さんには,是非とも学生への助言等でお力添えを頂ければと考えております. [勉強会の目的] ・「衝突研究をする以上,知っておくべき教養」の全体像を提示し,衝突勉強会に参加する学生全員の知識レベルを,その水準まで引き上げる. ・「全員が主体的に参加できて,勉強になる」会にする. [内容] ・ 全3回. ・ 各回に一つの「衝突に関するテーマ」を設定し,余りに細かい事まで触れることはせず,要点を上手くまとめて紹介する. ・ 毎回の勉強会終了後には「テーマに関する論理の概略」を全員が共有出来ているレベルにまで参加者の理解を引き上げる. ・ 全3回の勉強会が終了した時点で,参加者全員が今期定めたテーマに関して俯瞰的に理解できていることを目指す. [会のイメージ] ・<発表者>論文を読み,論理を整理する能力・内容を分かりやすく発表する能力を涵養する.(主に修士の学生) ・<聴講者>一方通行な知識の習得ではなく,積極的に議論に参加することで各テーマについての理解を深める. ※<博士課程の学生>発表者の準備補佐を通して,論理構造の整理・指導能力を身につける. 第1回日時:6/18(木) 17:00~18:30
テーマ:クレーター形態の標的物質依存性 紹介者:大村知美(神戸大)・・・ 発表資料 論文:Watters et al. (2015) Morphometry of small recent impact craters on Mars: Size and terrain dependence, short-term modification. 要旨: 火星におけるクレーター形態学の多くの最近の研究は大きなクレーター(D>5 km) を対象にして、レーザー測量より得られたelevation modelを用いていた。この研究では、小さな(25 m≤D≤5 km)、比較的よく保存されている、単純衝突クレー ターの全球的分布を、HiRISE stereo-derived elevation modelsを用いて調査した。これまでの大きな単純クレーターに関する研究から得られたスケール則は一般的に、小さな直径では深さと体積を大きく見積も ることがわかった。クレー ターリムの曲率は直径に強く依存することを示す。これはD<1 kmのスケーリング則でよく述べることができる。この直径を超えると、上部のリムの坂が固有安息 角を超えるようになり、クレーターリムはシャープになる。 この移り変わりは重力によって、クレーター形成中か短期的な緩和で穴の上部の壁が崩壊した結果によると思われる。加えて、我々は小さな (D<500 km)クレーターは大きなクレーターと比べより円錐形である傾向を突き止めた。そして平均の穴の断面図は指数が~1.75(円錐でも放物線でもない)のべ き乗則でよく表されることを明らかにした。我々は緩和の増加、標的の強度による傾向を明らかにするためクレー ターの分集団の統計的な比較も行っ た。これらの結果は単純クレーターの形状の”初期状態”を直径と地形学的条件の関数として述べる上で、またどのように衝 突クレーターが火星表面で時間を経て緩和されたか理解する上で重要な意味合いを含んでいる。 第2回日時:7/2(木) 17:00~18:30
テーマ:氷天体におけるイジェクタサイズ速度分布 紹介者:松榮さん(神戸大)・・・ 発表資料 論文:Singer et al. (2013) "Secondary craters from large impacts on Europa and Ganymede: Ejecta size–velocity distributions on icy worlds, and the scaling of ejected blocks." 要旨: EuropaのTyre、AchelousクレーターとGanymedeのGilgameshクレーター周囲の2次クレーターを計測し、氷への衝突におけるスケーリング則を用いて2次クレーターを形成した破片のサイズと速度を推定した。ある速度で放出された最大破片について知るために破片のサイズ-速度分布の上限を決定した。氷衛星の2次クレーターの放出速度のベキ乗数を、水星、月、火星のクレーターで決定したベキ乗数と比較した。盆地を形成するような衝突を除いて、岩石天体に比べて放出速度が大きくなるにつれて破片サイズの減少は小さくなることがわかった。Spallation理論によってある速度で放出されるspallの大きさを推定できるが、観測した2次クレーターを形成するためには小さすぎることがわかった。イジェクタの破片サイズはクレーター直径と比較でき、放出速度が大きくなると減少する。そして、point-source scalingはこの両者の関係を表す。今回調べたクレーターで最大のGilgameshクレーターは、放出速度の依存性が大きい。本研究の結果をそれぞれの氷衛星の脱出速度に外挿すると、後に同じ天体もしくは他の天体に再び衝突する最大の破片サイズを推測できる。これで形成されたクレーターを1.5次クレーターと呼ぶ。私たちは、EuropaとGanymedeの直径2km以上のクレーターは、1.5次クレーターではないということを見つけた。 第3回日時:7/16(木) 17:00~18:30
テーマ:クレーター形状のレゴリス層厚依存性 紹介者:田口雅子さん(名大)・・・ 発表資料 論文:Bart et al. (2014) "The quantitative relationship between small impact crater morphology and regolith depth." 要旨: 基盤岩を覆うレゴリスのようなターゲットで,強度遷移に遭遇する小さな衝突クレーター(〜10−300m)は独特の地形をもつ.先行研究ではこれらの地形を,レゴリス深さのindicatorとして使ってきた.本研究では,小クレーターの地形と層構造の間の定量的な関係についての我々の理解を広げる,いくつかの新たな解析について報告する.まず,層構造とクレーターの地形の間の明確な関係が解析されたことがなかったために,アップデートされた手法の適用が不確かだった3つの実践的な状況について説明する.この不確かさを解消するために,クレーター形状のどの大きさが層厚に関係するのかを示す,コンピューターモデルと月のデータの新たな解析を報告する.また,クレーターと層構造の関係が層厚の推定を可能にする境界条件についても解析する.最後に,クレーターと層構造の関係の更なる理解を踏まえて,この手法の火星への適用の可能性について議論する. updated: 2015/07/16 |