TV会議 衝突勉強セミナー12
テーマと選定論文 テーマ: 「小惑星とは何者か?」
世話人: 黒澤(宇宙研),保井(神戸大) テーマ紹介文: 初回は「小惑星とは何者か?」をキーワードに、論文を選択しました。 1つは、小惑星に関する総説(小惑星全体、族形成、トロヤ群)、もう1つは小惑星表面及び内部で起こりうる物理過程(細粒放出物の生成、衝突励起地震、衝突加熱による内部焼結)です。 小惑星は、太陽系初期の情報を保持していると考えられており、現在進行形の探査を含め、複数の惑星探査のターゲットとなっています。 そこで、小惑星とは何者で、その現場では何が起こっているのかを論文を通して学び、惑星探査で得られる可能性のある情報も含め、今度どのように研究課題として展開できうるか、参加者で議論したいと思います。
スケジュール第1回 日時: 4/20(金)15:30-17:30
内容その1: テーマ概説 発表資料 発表者:黒澤耕介(宇宙研) 要旨: 初回は「小惑星とは何者か?」をキーワードに、論文を選択しました。 1つは、小惑星に関する総説(小惑星全体、族形成、トロヤ群)、もう1つは小惑星表面及び内部で起こりうる物理過程(細粒放出物の生成、衝突励起地震、衝突加熱による内部焼結)です。 小惑星は、太陽系初期の情報を保持していると考えられており、現在進行形の探査を含め、複数の惑星探査のターゲットとなっています。 そこで、小惑星とは何者で、その現場では何が起こっているのかを論文を通して学び、惑星探査で得られる可能性のある情報も含め、今度どのように研究課題として展開できうるか、参加者で議論したいと思います。 初回は,なぜこのテーマを選択したか,そして小惑星に関する基礎知識を簡単に紹介します。 内容その2: 論文1紹介 発表資料 発表者:保井みなみ(神戸大) 紹介論文:An overview of the asteroids: The asteroids III perspective Bottke, W. F., Cellino, A., Paolicchi, P., and Binzel, R. P., in Asteroid III 3-16, 2002 要旨:Asteroid IIIに記載された小惑星に関する様々な研究論文の総括です。今テーマで紹介する論文2〜6に関連した事項を抜粋し、簡潔にまとめて紹介します。 第2回 日時: 5/31(木)17:00-19:00
内容その1: 論文2紹介 発表資料 発表者: 鈴木絢子(CPS/神戸大) 紹介論文: Mid-infrared spectral variability for compositionally similar asteroids: Implications for asteroid particle size distributions P. Vernazza, B. Carry, J. Emery, J. L. Hora, D. Cruikshank, R. P. Binzel, J. Jackson, J. Helbert, and A. Maturilli, (2010), Icarus, 207, 800-809 要旨: リモセンの結果では似た組成を持つと考えられている8つのSタイプの小惑星において,中間赤外スペクトルでは予想しなかったバリエーションがあることを見つけた.中間赤外スペクトルを用いて組成推定を行うと,これらの小惑星は組成的に一致していないということになってしまった. しかし,Ramsey と Christensen の実験(Ramsey & Christensen, 1998, JGR)に即して,これらのバリエーションは組成が異なっているのではなく,物理的(表面の粒子サイズ and/or 宇宙風化)な原因で起こっていると推定した. 観測された小惑星の表面は細かいダスト(<5μm)で覆われていて,スペクトルの特徴を隠してしまっていることが示唆される. 内容その2: 論文3紹介 発表資料 発表者: 鎌田俊一(東大) 紹介論文: The global effects of impact-induced seismic activity on fractured asteroid surface morphology J. E. Richardson, H. J. Melosh, R. J. Greenberg, and D. P. O'Brien, (2005), Icarus,179, 325-349 要旨: 本論文では、解析解や数値シミュレーションといった理論計算を通して、小惑星の地形に対する衝突励起地震の影響を調べた。その結果、NEAR-Shoemakerで観測された小惑星 Eros 上の地形的特徴(小さなクレーターが少ないなど)は衝突励起地震で説明できることが分かった。 第3回 日時: 7/5(木)17:00-19:00
内容その1: 論文4紹介 発表資料 発表者: 長岡宏樹(神戸大) 紹介論文: Meteoritic and other constraints on the internal structure and impact history of small asteroids Scott, E. R. D. and Wilson, L., (2005), Icarus 174, 46-53. 要旨: エロス、ガスプラ、イダのようなS型小惑星の内部構造については異なる見解が存在する。それは、それらが割れ目のある一枚岩の天体だというものと重力的に結合しているラブルパイル天体であるというものである。この異なる見解は、もし10-50kmサイズのS型小惑星がラブルパイルとして形成し、後に一枚岩の天体として固まったとしたら解決されるかもしれない。これは、角礫岩化隕石を形成するような軽い衝撃によってレゴリスや角礫岩破片を固めるプロセスや、衝突励起地震が内部空間を部分的にレゴリス で満たすプロセスによって説明される。また、自転データは0.6-6kmサイズの小惑星はラブルパイル天体だと示し、C型小惑星はおそらく衝撃によって固められなかった天体である。 内容その2: 論文5紹介 発表資料 発表者: 三嶋慎平(東大) 紹介論文: The velocity-size relationship for members of asteroid families and implications for the physics of catastrophic collisions Cellino, A., Michel, P., Tanga, P., Zappala, V., Paolicchi, P., and Dell'Oro, A., (2005), Icarus 141, 79-95. 要旨: 近地球小惑星(NEA)は,地球に飛来する最近のインパクターの主要な供給源であるとされ,その形成はメインベルト内において共鳴軌道に投入された小惑星の放出によって起こったと考えられている。小惑星がメインベルト内で共鳴軌道に投入されるかどうかを知るためには,母天体の破壊的衝突過程によって小惑星が形成したときの速度とサイズの関係を明らかにすることが決定的に重要である。そこで,本研究では,小惑星のメインベルト内の小惑星族(一つの母天体の衝突破壊によって形成されたと考えられる小惑星のグループ)のメンバーに対する広範囲のサイズ‐速度分布を調べ,より小さな破片が平均的にはより大きな形成時の母天体からの放出速度を持つという明確な挙動を確認した。本研究の結果は,破壊的分裂過程に関する現在のモデルに修正が必要であることを実際の観測データの分析から示すとともに,族内の最大小惑星と母天体の質量比が0.8を超えた時に,破壊的分裂のレジームからクレーター形成のレジームに遷移することを明らかにした。さらに,我々が今回適用した破片の放出速度の見積もりの手法は,小惑星ベルトの衝突進化の数値モデルに容易に実装できる。これにより,特に,近地球小惑星の供給源としての,メインベルトにおける衝突イベントの有効性をより定量的に評価することが可能になるはずである。 第4回 日時: 7/19(木)17:00-19:00
内容その1: 論文6紹介 発表資料 発表者: 岡村奈津子(東大) 紹介論文: Near-infrared spectroscopy of Trojan asteroids: Evidence for two compositional groups Emery, J. P., Burr, D. M., and Cruikshank, D. P., (2011), AJ 141, 25-42. 要旨: 木星の安定なラグランジュ領域(L4とL5)に存在するトロヤ群小惑星の鉱物組成を調べることによって、その起源を探ることができ、引いては太陽系の力学進化のモデルに観測的な制約を与えることができるだろう。トロヤ群小惑星の鉱物組成については、現在までに微粒子のシリケイトしか検出されていない。微粒子のシリケイトは彗星にもメインベルト小惑星にも存在する物質であり、これだけではトロヤ群小惑星の起源を調べることはできない。よってトロヤ群小惑星の主な構成物質である水氷や有機物の有無や種類を調べる必要がある。しかしアルベドがとても低いので(0.03~0.07)、吸収が確認できる精度で近赤外領域のスペクトルをこれまで取得できていない。 そこで本論文では、IRTFを用いて観測したL4とL5に存在する58個トロヤ群小惑星の66個の新しい近赤外領域0.4-2.5micronのスペクトルを提示する。観測結果では、はっきりとした水氷や有機物の吸収は見られなかったが、観測波長域のスペクトルの傾きの違いによって2つのグループ(Redder Trojan group, Less-redTrojan group)に分けられることを明らかにした。このスペクトルグループはL4とL5において同量存在し、小惑星族の分類とは関係のないことが分かった。先行研究によって観測された可視領域のスペクトルでも、同様に2つのグループに分けることができる。グループの違いは、Redder Trojan groupのスペクトルの傾きがD-type, Less-red Trojan groupのスペクトルの傾きがX-type, C-typeと調和的なことから、鉱物組成の違いを反映している可能性が高い。よってLess-redgroupは木星付近か小惑星帯起源である一方で、Redder spectral groupは太陽系内のさらに遠くが起源であると考えられる。 内容その2: 全体のまとめと議論 updated: 2012/07/19 |