TV会議 衝突勉強セミナー13
今期セミナーのコンセプト今期の勉強会は前回(昨年度後期)と同様に学生を主な対象とし、クレーターや衝突破壊のスケーリング理論の枠組みを理解することに重点を置き、それに関する基礎的かつ重要性の高い論文を選定しました。ポスドク以上の研究者の皆さんには、是非とも学生への助言等でお力添えを頂ければと考えております。
[勉強会の目的] ・「衝突研究をする以上、知っておくべき教養」の全体像を提示し、衝突勉強会に参加する学生全員の知識レベルを、その水準まで引き上げる。 ・「全員が主体的に参加できて、勉強になる」会にする。 [内容] ・ 全3回。 ・ 各回に一つの「衝突に関するテーマ」を設定し、余りに細かい事まで触れることはせず、要点を上手くまとめて紹介する。 ・ 毎回の勉強会終了後には「テーマに関する論理の概略」を全員が共有出来ているレベルにまで参加者の理解を引き上げる。 ・ 全3回の勉強会が終了した時点で、参加者全員が今回定めたテーマに関して俯瞰的に理解できていることを目指す。 [会のイメージ] ・ 最初の約10分 世話人によるテーマの説明。 ・ 論文を読み、うまくまとめて発表する能力を涵養する目的で、発表者は主に修士の学生を想定。博士の学生がそれを補佐する。 第1回日時:7/11 (木) 16:30-18:30
テーマ:衝突破壊強度スケーリング 紹介者:辻堂さやか(神大)・・・ 発表資料 <問い:「衝突破壊強度のサイズ依存性とは?」> 論文:Benz, W., Asphaug, E., 1999, Catastrophic Disruption Revisited, Icarus 142, 5-20. 要旨:カタストロフィック破壊の衝突破壊強度を決めるため、cmからkmサイズの岩石、氷天体の衝突をシミュレーションする。物質強度と自己重力の効果を組み合わせ、強度支配域、重力支配域、あるいは中間領域を考え、最大破片の特徴を調べる。結果として、比較的小さなターゲットについても、重力は重要であり、破片が脱出速度を超えるのを困難にしていることがわかった。衝突における運動量移行効率が悪いため、より大きい破片の速度は小さくなり、より大きな衝突でないとばらまかれない。また、最ももろい天体は、直径300m程であるということもわかった。これ以上大きくなると、破壊されても脱出速度を超えにくくなる。 第2回日時:8/22 (木) 16:30-18:30
テーマ:クレータースケーリング 紹介者:原田 竣也(神大)・・・ 発表資料 <問い:「実験室スケールの現象をどのようにして天体に応用するか?その合理性と限界は?」> 論文:K. A. Holsapple, 1993, The scaling of impact process in planetary sciences, Annu. Rev. Earth Planet. Sci. 21, 333-373. 要旨:衝突に伴うクレーターリングは天体表面における主要な地質過程である. クレーターの深さや半径,体積を定量化する手法に「スケーリング則」が存在し,これを用いることで衝突体サイズや速度,標的の強度などの衝突現象に関わるパラメーターを決定し、形成されたクレーターがこれらのパラメーターにどう依存するのかを予測することができる.このことによって、実験室スケールの現象と天体スケールの現象とを接続し、天体に起こった衝突の特徴を推定することができる。このようなスケーリングは、クレーター形成に関わるパラメーターを圧力強度比や密度比をとることで無次元化し,それらの関係がどのようなべき乗則に従うかを調べることで行う. しかしこれらのパラメーターは,衝突体サイズ程度の空間スケールに限られる範囲でのパラメーターであり,衝突によって形成されるクレーターサイズの範囲を考慮していない. 衝突体サイズよりも大きく成長し,衝突体サイズ/衝突速度で表される時間スケールに比べ長時間がたったクレーターに,パラメーターはどんな影響を与えるだろうか.これを調べるために、衝突の瞬間には衝突直下の点源に衝突の総エネルギーと運動量が存在すると近似し,それが時間とともに外側へ伝播するとする.これを基にクレーターの体積や深さ,半径をスケーリング則で表記した. また、実験で得られたデータからクレーター効率(クレーター体積に関する無次元数)のスケールング則のべきを決定した月の単純クレーターについては,深さやリム高さに関する無次元数が実験と近い値となり,深さとリム高さのスケーリング則が求められた. 第3回日時:9/27 (金) 16:30-18:30
テーマ:クレーター形状の遷移過程 紹介者:羽倉 幸一(東大)・・・ 発表資料 <問い:「最終的なクレーター形状を 決定する要素はなにか?」> 論文:H. J. Melosh and B. A. Ivanov, 1999, Impact crater collapse, Annu. Rev. Earth Planet. Sci. 27 (1), 385-415. 要旨:衝突クレーターの形態は、衝突直後に一時的に形成するお椀型の”トランジェントクレーター”の崩壊によって左右されると考えられている。直径の小さいクレーター(月で約15 km未満)では、リムの最も急な部分が崩壊し,トランジェントクレーターの上にレンズ状に堆積する。このようなクレーターを単純クレーターと呼ばれ、深さと直径の比はおよそ1:5である。直径の大きいクレーターではさらに劇的な崩壊が起こり、それに伴って中央丘、段丘、そしてさらに大きなクレーターでは内部リングが形成される。これらを複雑クレーターという。 単純クレーターと複雑クレーターの移行は1/gでスケーリグされ,強度の閾値を超えた時崩壊が起こることを示唆する。しかしながら、見かけ上では強度はとても低く(数bar程度)、内部摩擦がほぼない。この性質は衝突地点付近の岩石の強度が一時的に減少するメカニズムを必要としている。 近年の研究では、このプロセスに対してacoustic fluidizationやshock weakeningを含む幾つかのモデルが考えられている。その中でも特にacoustic fluidizationのモデルは、より詳細な理解が必要であるものの、観測結果と最も良い一致を示している。本発表では、そのコンセプトとモデルについて紹介する。 updated: 2013/9/27 |