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学会賞選考委員会委員長 寺田 直樹
今年度から,最優秀発表賞に準じる賞として,優秀発表賞が設置されました.これまでは,本学会の将来を担う新進気鋭の応募者(学生会員)によるハイレベルな発表が多数なされるのに対して,原則1名(特別の理由がある場合は2名)に最優秀発表賞が授与されていました.最優秀発表賞と甲乙つけがたい優秀な発表が毎年多数ありますので,その中から原則1名のみしか表彰できないことは,選考委員にとって悩みの種でした.今年度からは,このような最優秀発表賞に準じる発表を行った学生会員をエンカレッジすべく,優秀発表賞の選考・表彰を併せて行います.
今年度の最優秀発表賞・優秀発表賞には13名の応募がありました.本審査可能枠の応募数を超えたため,応募資格を満たした12名に対して予稿に基づく予備審査を実施し,10名を本審査対象としました.秋季講演会初日(9月20日)午前に最優秀発表賞選考特別セッションでの口頭発表と,昼休みから午後にかけて選考委員との個別質疑を,ハイブリッド形式(対面とオンラインの併用)でそれぞれ実施し,それらを8名の選考委員で審査しました.同日夕方の選考委員会による選考ならびに運営委員会での審議の結果,2022年度最優秀発表賞受賞者は桑原歩会員(東京工業大学,講演題目「原始惑星が駆動するガス流れ場とダストの運動:円盤面密度分布と惑星形成への影響」,共著者は黒川宏之さん,谷川享行さん,奥住聡さん,井田茂さん)とすることに決定しました.9月21日の日本惑星科学会第58回総会において授賞式が行われ,桑原会員には中村会長から賞状と賞金10万円が贈呈されました.
また,2022年度優秀発表賞受賞者には,于賢洋会員(東京大学,講演題目「マグマの生成・移動を伴う2次元円環マントル対流による月の進化モデル」,共著者は亀山真典さん,小河正基さん)と,庄崎弘基会員(東京工業大学,講演題目「機械学習によるカオス地形の識別と分類:火星地下氷圏の分布と進化への示唆」,共著者は関根康人さん,Nicholas Guttenbergさん,小松吾郎さん)の2名が選出されました.9月21日の総会の授賞式において,于会員と庄崎会員には中村会長から賞状が贈呈されました.
桑原歩会員は,地球質量程度の小質量惑星の存在による円盤ガスの流れ場の乱れと,それに伴うダストの運動と分布を数値シミュレーションにより調べ,ダストのリング・ギャップ構造について新たな形成機構を提示しました.小質量惑星の存在が原始惑星系円盤に与える影響を明らかにするという切り口は明快で,研究の要点が分かりやすく説明されていました.また,研究成果を数々の学術論文として纏め上げてきた実績も高く評価されました.一方で,物理過程の要点に関する説明の多くが省略されており,物理モデルとしての深みを十分にアピールできていなかったという意見もありました.今後,今回提示した新たな形成機構が系外惑星の多様性にどう繋がるかを明らかにしていくことが期待されます.このように,桑原会員の発表は総じて高い評価を得ましたので,最優秀発表賞に相応しいと判断しました.
于賢洋会員は,月の内部進化を二次元円環マントル対流の数値シミュレーションによって調べることで,地質学的・測地学的観測によって示唆される月の初期膨張が,マントル対流によるマグマの上昇と膨張で説明できることを新たに示しました.世界に先駆けてマグマの上昇と膨張の効果を定量的に示したという研究成果の新規性が高く評価されました.他グループの関連研究との差異や,惑星科学的応用についても発表に盛り込むことができていれば,最優秀発表賞に手が届く素晴らしい発表でした.
庄崎弘基会員は,火星表面に観察されるカオス地形に対して機械学習による画像認識を適用することで,カオス地形をその形成メカニズムに基づいて識別・分類し,過去の火星地下水/氷圏の分布とその進化を制約する新しい知見を得ました.カオス地形の成因から火星の水/氷分布進化の大きな描像を議論していたことに加え,しっかりと聴衆を見ながらスライドを指し示すといった発表姿勢も高く評価されました.機械学習のメリットをより明確に説明できていれば,最優秀発表賞に手が届く素晴らしい発表でした.
今年度も応募者の発表レベルはいずれも極めて高く,選考委員会の議論は白熱しました.残念ながら受賞に至らなかった方々は,今後さらに研鑽を積み,来年度以降も資格がある方については,是非,最優秀発表賞・優秀発表賞に再挑戦していただきたいと思います.
来年度以降も,多くの学生会員からの応募を歓迎いたします.