2017年度選考委員会委員長 門野敏彦(産業医科大学)
日本惑星科学会2017年度「最優秀研究者賞」は2017年12月に募集要項を公表し,2018年2月に応募受付を始め,3月4日に応募を締め切りました。応募者は7名でした。
応募者7名について,惑星科学への寄与,将来にわたって惑星科学会の中核となって活躍が期待できるか,研究の独自性・独立性,学会での参加・発表,論文数,掲載雑誌,引用数など,さまざま観点から審査を行いました。応募書類に対する精査の後,4月11日,全選考委員が参加しての審議を行いました。応募者はいずれも優れた方々であり選考作業は大変難しいものでしたが,選考委員会は最終的に次の方を受賞候補者として選び,運営委員会に報告し承認されました。
受賞者
氏名: 鎌田 俊一(かまた しゅんいち)
所属: 北海道大学創成研究機構 特任助教
候補者についての推薦書執筆者: 倉本圭(北海道大学理学部)
以下に,選考委員会による評価等を紹介します。
鎌田会員の研究スタイルは,探査・理論モデルをはじめ多種多様な分野をバランスよく結び付けて理解を深めようとする,ある意味で惑星科学の「王道」です。日本独自の探査データが得られるようになった現在も,このような人材は日本にはまだ多くはありません。彼のような王道を真正面から突き進むことが出来る人材は今後の日本の惑星科学業界に必須であり日本惑星科学会を強力に牽引してもらわなければなりません。このような期待もこめて,彼が2017年度の研究者賞に値すると評価しました。
彼は,固体天体の粘弾性応答に着目し,熱進化や潮汐の影響についての研究に取り組んできました。惑星スケールの固体変形問題は,非線型的に粘性が効き同時に粘性が温度に強く依存することから,変形と熱進化の異なるタイムスケールを内包する,とても複雑な系を扱わなければなりません。このため従来の研究では「熱進化しない」または「ひずみは短い時間で解放される」など強い仮定を導入して問題を簡単化することでクレーターの緩和や氷天体内部の潮汐加熱を扱ってきました。探査などによって得られる表面地形の情報から天体の進化を紐解くうえで重要なこれらの課題に彼は正面から取り組み,強い仮定の導入を必要としない新たな研究手法として地形緩和と熱進化を同時に高精度に解くための方法を考案し,その有効性を示す事に成功しました。この手法には地球の自由振動の計算法を応用しており,彼のバックグラウンドの広さが伺えます。
鎌田会員は手法の開発だけにとどまらず,当時最新の日本の月探査衛星「かぐや」のデータ解析に応用することで,月の内部構造の進化に制約を与えることに成功しました。手法を開発して間もなく最新のデータを解析する機会を得られたことは幸運に恵まれているように見えますが、しっかりと「かぐや」を見据えて研究を進めていなければ,このような成果はうまれなかったと思われます。
その後,鎌田会員はカリフォルニア大学サンタクルーズ校にて,到着間近の「ニューホライズンズ」の観測を予測する研究に携わることができました。この留学をきっかけに幅広い人脈を作ることにも成功したようです。帰国後は国際木星探査計画「ジュース」に参加,氷衛星の潮汐変形の理論検討を主導しています。
このように鎌田会員は固体天体の表層地形の進化モデルを武器に,固体天体の探査と理論を橋渡しする,とても重要な役割を担っています。 彼は見た目通りの真面目さと人当たりの良さ,多くの人と積極的に議論する姿勢,一緒に仕事をしたいと思わせる人格を持ち,国内外の学会では常に人に囲まれ議論している姿が印象的です。また学生の指導にも熱意をもっていると聞きます。
以上のような点を踏まえ,選考委員会および運営委員会は鎌田会員を2017年度の最優秀研究者賞にふさわしい方であると判断しました。
最後に,今回の選考について少し触れたいと思います。今回は7名の応募がありました。研究分野は多岐にわたり,また全員が優秀な方々で研究内容と論文の量と質において全ての方が極めて高い水準にあり,選考作業は大変難しく苦しいものでしたが,審査する側としてはあらためて大変勉強になりました。今回応募された皆さんは全員が研究者としてとても優秀であり大変アクティブに最先端の研究をされていることは誰が見ても間違いありません。残念ながら選に漏れた方々も,今後の研究人生でさらに飛躍されるであろうことを確信しています。
2018年5月21日