2016年度選考委員会委員長 中本泰史(東京工業大学)
日本惑星科学会2016年度「最優秀研究者賞」は2017年1月に募集要項を公表し,2017年2月に応募受付を始め,3月6日に応募を締め切りました。応募者は6名でした。
応募者6名について,研究業績,惑星科学への寄与,将来にわたって惑星科学会の中核となって活躍が期待できるかなど,さまざま観点から審査を行いました。応募書類に対する精査の後,5月10日と5月22日の2回にわたり,全選考委員が参加しての審議を行いました。応募者はいずれも優れた方々であり選考作業は大変難しいものでしたが,選考委員会は最終的に次の方を受賞候補者として選び,運営委員会に報告するという結論にいたりました。
受賞者
氏名: 秋山永治(あきやま えいじ)
所属: 国立天文台チリ観測所 特任助教
候補者についての推薦書執筆者: 林正彦(国立天文台)
以下に,選考委員会による評価等を紹介します。
秋山さんは,チリのALMA電波望遠鏡やハワイのすばる望遠鏡など,大型の観測装置を用いて原始惑星系円盤を観測し,そこでの惑星形成に関する研究を行っておられます。また,ALMAの品質保証システムの開発で東アジア代表を務めておられ,観測データの品質向上において国際的な貢献をされています。
秋山さんの主な研究の一つは,おうし座 HL星周囲の原始惑星系円盤についてのものです。おうし座HL星に対しては,国際的共同研究組織によりALMAの高い空間分解能を生かした観測データが得られ,世界を驚かす結果が発表されていました。秋山さんは公開されているそのデータに対し,空間分解能やSN比に基づくデータの取捨選択を工夫するなど独自の再解析を丁寧に施すことで,ダスト円盤内のギャップ構造を極めて明確に示すことに成功しました。そしてこのような結果を基にして,惑星の形成過程の議論も展開されています。また,すばる望遠鏡による原始惑星系円盤の直接撮像プロジェクト(SEEDS)の一環としてうみへび座 TW 星の観測も行い,中心星から約20 au の距離にリングギャップ構造が存在することを明らかにされました。以上のような研究はいずれも,原始惑星系円盤における惑星形成過程を観測によって直接的に明らかにしようというものであり,丁寧な解析によって詳細な円盤構造を明らかにするという研究成果は惑星科学への寄与が大きいと評価されました。また,これらの研究はいずれも大型プロジェクトによる有名天体の観測結果ですが,秋山さんが大人数による大プロジェクトの中でも埋没せず,地道に独自の解析を行うことによって成果をあげ,着実に論文として発表されている点も高く評価されました。
以上のような点を踏まえ,選考委員会および運営委員会は秋山さんを2016年度の最優秀研究者賞にふさわしい方であると判断しました。
最後に,今回の応募の状況について少し触れたいと思います。今回は6名の応募がありましたが,いずれも優秀な方々で,選考作業は大変難しく苦しいものでした。一方で,こうした優秀な若手の皆さんがたくさんおられるということは大変喜ばしい状況であり,嬉しくも思いました。今回残念ながら選に漏れた皆さんは次年度のこの賞の応募者となられますが,皆さんが今後もますます活躍され,さらに大きくなって帰って来られることを楽しみにしています。それからもちろん,今回は応募されていない新たな皆さんからも,多数の応募があることを期待します。
2017年8月9日