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トップページ > ニュース > 学会賞 > 最優秀研究者賞選考経過の講評

選考経過の講評

2010年度選考委員会委員長 松田佳久 (東京学芸大学)

日本惑星科学会2010年度「最優秀研究者賞」は2010年12月に募集要項を公表し,2011年2月に応募受付を開始しました.2011年2月28日に応募を締め切り段階で5名の方より応募がありました.

5名の方について,一次審査(論文審査)を行い,5月初めに候補を3名に絞りました.次に,この3名について,研究業績,惑星科学への寄与,将来にわたって惑星科学会の中核となって活躍が期待できるか等を,更に詳細に審査し,2011年5月19日に審査委員が集まって議論し,その後投票を行ないました.各委員の意見や投票結果の総合的な評価を比較したところ,2名の候補者の優劣が付けがたく,選考委員会は両名を受賞者として選び,運営委員会に報告しました.第90回運営委員会は下記の2人の会員を受賞者に決定しました.

受賞者

  氏名: 小林 浩(こばやし ひろし)
  所属: Astrophysical Institute and University Observatory, Friedrich Schiller University Jena
  候補者についての推薦書執筆者: 田中 秀和(北海道大学低温科学研究所)

  氏名: 諸田 智克(もろた ともかつ)
  所属: 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 固体惑星科学研究系 (現 自然科学研究機構 国立天文台)
  候補者についての意見書執筆者: 古本 宗充(名古屋大学大学院環境学研究科)

以下に,各受賞者のご自身および審査委員による評価等を紹介します.

小林会員は,東京工業大学・地球惑星科学専攻で2004年に,井田茂助教授(現同大学教授)の指導のもと「Evidence of an early stellar encounter in Edgeworth-Kuiper belt」というテーマで博士学位を取得しました.その後,同大学原子炉工学研究所研究員(澤田哲生助手、現助教),ついで名古屋大学大学院環境学研究科研究員(渡邊誠一郎助教授、現教授),北海道大学低温科学研究所博士研究員(山本哲生教授)に従事し,2009年からはイエナ大学Alexander Krivov教授のもとで研究員(Wissenschaftlicher Mitarbeiter)をしています.

小林浩会員は,これまで惑星形成に関する理論的研究に取り組んできました.なかでも,太陽系外縁部の小天体(いわゆるカイパーベルト天体)の形成理論やダスト・デブリ円盤のダイナミクス,木星型惑星のコアの形成理論において顕著な業績を挙げています.特にこの2,3年は,すばらしいペースで立て続けに原著論文を発表しています.

小林会員の代表的な業績を簡単に紹介します.

  • 太陽系外縁部小天体の形成理論
    太陽から40-50天文単位にあるカイパーベルトには,軌道傾斜角の大きな天体が含まれています.この事実は当時説明困難とされていました.小林会員は,星が集団で生まれることにいち早く目を付け,原始太陽系と恒星の遭遇によって,そうした天体の存在を説明することに成功しました.また,そのアイデアを数値シミュレーションで確かめただけでなく,摂動論を用いた解析計算によって,現象を支配する物理を明らかにしました.
  • ダスト・デブリ円盤のダイナミクス
    小林会員は,ダスト・デブリ円盤の観測と惑星形成理論を結びつけるという目標の下,ダストの昇華過程を組み込んだ軌道進化の研究に取り組みました.その研究で,ポインティング・ロバートソン効果で中心星に落下するダストが,昇華によってサイズが減少することで輻射圧の影響が大きくなり落下が止まるため昇華領域の淵にダストが溜まるという現象がダストの構成物質や中心星によらず一般的に起こることを示しました.その結果,昇華領域の淵に観測可能なダストリングが形成されることも明らかにしました.この発見は,ダストリングの観測からその成因を特定できることを示唆しています.
  • 木星型惑星のコアの形成理論
    微惑星の衝突破壊によるダストの生成およびデブリ円盤形成過程を調べ,デブリ円盤だけでなく惑星形成にも破壊が非常に重要であることを示しました.さらに,微惑星の衝突合体成長に伴う破壊を考慮した原始惑星形成のシミュレーションを,独自のコードを開発するところから行い,破壊による原始惑星の成長阻害を実証しました.このシミュレーション結果から惑星形成の際のダスト分布も得られたため,惑星形成が起きている円盤を観測し解析する研究へと今後の応用が期待されます.

こうした論文の質および国際的評価に加えて,学会賞選考委員会は,小林会員が

  • 本質的な問題を順序立てて追究している点

  • シミュレーションだけに留まらず,できる限り解析化を行い,汎用性の高い理論に仕上げている点

  • さらに,将来の天文観測による検証を念頭に置き,理論化を進められている点

を特に高く評価しました.このように研究業績と研究者としての資質と将来性の高さから,小林浩会員を2010年度日本惑星科学会最優秀研究者賞の受賞者に決定いたしました.

諸田会員は,金沢大学大学院自然科学研究科で2003年に,古本宗充教授(現名古屋大学教授)の指導のもと「月における天体衝突の時空間変化」というテーマで博士学位を取得しました.その後,JAXA宇宙科学研究本部(宇宙科学研究所)固体惑星研究系にて,宇宙航空プロジェクト研究員,学術振興会特別研究員(PD)として,SELENE(かぐや)プロジェクトに加わりました.2011年4月からは,国立天文台研究員として三鷹で研究活動を行っています.

諸田会員は,主に月惑星の表層進化に関する研究を進めてきましたが,特に日本の月探査機「かぐや」の画像データを用いた表面のクレーター年代の推定により,月の火山活動史や天体衝突に関するさまざまな重要な知見を得ることに成功しています.最近5年間で,主著論文6本を含む20本以上の国際誌論文の執筆に関わっておられますが,その中には「かぐや」の主要な成果とも言うべき研究成果がいくつも含まれており,これらはNatureやScience誌にも掲載されております.

諸田会員の代表的な業績を簡単に紹介します.

  • 諸田会員の特筆すべき研究は,月の溶岩流の詳細な年代決定を行ったことと,溶岩流の体積を現実的に推定したことです.たとえば月の裏側における火山活動が,従来考えられていたよりも7億年ほど長く続いていたことや,月の最後のマグマ噴出が約15億年前に生じていたことなど,月における火山活動が,これまでの推定を大きく覆して,非常に長く続いていたことを明らかにしました.これらは月の火成活動史における驚くべき発見であり,月の熱的進化を考える上で世界的にみても極めて重要な貢献と言えます.また,月の裏側におけるマグマの生成量が表側と比べて1/3 - 1/10であることを定量的に明らかにすることで,これまで広く受け入れられてきた表と裏の地殻の厚さの非対称性のみならず,マントル中の温度構造の違いも考慮すべきであると指摘しました.この考え方は今後国際的な月研究において,さまざまな形で検証されて行くものと考えられます.

こうした国際的にも評価の高い成果は,「かぐや」の画像データの特徴である高分解能という性質を十分に活用することで生まれましたが,これが諸田会員の「かぐや」プロジェクトに対する多面的かつ誠実な貢献があったからこそはじめて可能となったことも,選考委員会は評価しました.諸田会員は「かぐや」が打ちあげられる3年以上前から,光学機器チームのメンバーとしてデータ解析システムの開発や観測運用計画の立案に携わってきました.そして実際の探査期間においては,運用計画の立案や運用作業を担当されるなど,「かぐや」が高い品質の探査データを獲得するのに際し,中心的な役割とも言うべき多大なる貢献があったと認められます.さらにこうして得られた探査データを一般に公開し研究者の解析を支援する活動も行っている点も,高く評価されました.

こうした一連の活躍は,惑星科学全体の発展へ極めて大きな貢献であると認められるため,惑星科学会の最優秀研究者賞にふさわしいと選考委員会は判断しました.

2010年度,惜しくも受賞に至らなかった候補者の方々も,最優秀研究者賞候補にふさわしい研究業績と将来性を持っており,今後とも日本惑星科学会の中核となって活躍が期待できる方々です.さらに研究業績及び学会における様々な観点からの寄与を重ねて研究者賞に再度エントリーして頂けることを希望します. 2011年度も2012年初めに締め切り予定で最優秀研究者賞を実施いたします.惑星科学会の若手研究者の皆さんには,最優秀研究者賞への積極的な応募を期待しています.

2011年6月11日

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