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学会賞選考委員会委員長 平野 照幸
今年度の最優秀発表賞・優秀発表賞には18名の応募がありました.応募資格を満たした16名に対して提出された予稿に基づく予備審査を実施し,10名を本審査対象としました.そしてこの10名について,秋季講演会初日(9月3日)午前の最優秀発表賞選考特別セッションにおける口頭発表,及び,昼休みから午後にかけての個別審査で構成される本審査を実施しました.審査員が共著や指導する立場にあった場合,その発表に対する評価は,参考データの扱い(予備審査時)および不実施(本審査時)とし,公平性を担保しました.
同日夕方に開催した学会賞選考委員会による選考ならびに運営委員会での審議の結果,2025年度の最優秀発表賞受賞者は,所司歩夢会員(九州大学,講演題目「へびつかい座分子雲に位置する原始惑星系円盤の超解像度サーベイ II: ダスト円盤半径の統計的解析および詳細構造の形成時期に関する考察」)および日向輝会員(東京大学,講演題目「その場K–Ar年代計測装置によるアマゾニア代の火星隕石の測定:火星の年代モデル制約の可能性」)に決定いたしました.9月4日の日本惑星科学会第64回総会において授賞式が行われ,所司会員と日向会員には,今村会長から賞状と副賞5万円がそれぞれ贈呈されました.
また,2025年度優秀発表賞受賞者は,北出直也会員(総合研究大学院大学・国立天文台,講演題目「原始惑星系円盤におけるミリ波連続波・ミリ波偏光を想定した平行平板の輻射輸送数値解」)に決定いたしました.9月4日の日本惑星科学会第64回総会において授賞式が行われ,北出会員には,今村会長から賞状が贈呈されました.
所司会員は,詳細構造を推定するのが難しかった原始惑星系円盤に対して,スパースモデリングと呼ばれる手法を用いることで円盤画像の解像度を格段に向上させる手法を研究し,それをALMAで観測されたへびつかい座分子雲に含まれる78個の原始惑星系円盤の解析に応用しました.その大規模なデータ解析の結果,天体のボロメトリック温度と円盤の詳細構造の出現の相関を示し,従来信じられていたよりも早い段階で惑星形成が始まっている可能性があることを明らかにしました.発表では解析結果や意義がわかりやすくプレゼンされており,結果の惑星科学的なインパクトも非常に高く評価されました.よって最優秀発表賞の授与を決定しました.
日向会員は,火星表層のその場年代推定のためのK-Ar年代計測装置の開発を行い,従来だと分析が難しかったK,Ar濃度の低い火星隕石に対してLIBS-MS法を用いて精度良く年代推定ができるように装置・測定法を改良しました.また,それらを用いて実際に3種類の火星隕石を分析し,推定された年代が先行研究とよく一致することを示したことで,このLIBS-MS法が将来の探査でも有効であることを実証しました.発表では背景や手法が丁寧に示されており,機器開発・実証における本人の貢献も明確であったことを高く評価し,最優秀発表賞の授与を決定しました.
北出会員は,原始惑星系円盤内のダストの吸収・放射・散乱を考慮した輻射輸送計算を実施し,円盤からのミリ波連続波強度および偏光度を求める数値計算を実施しました.その結果,ミリ波連続波強度は先行研究で用いられていた近似式と比較して10-15%程度ずれることを示し,近似式を用いることの問題点を明らかにしました.また,偏光度については計算結果によくフィットする関数を考案し,将来観測からダスト特性を制限する高速かつ正確な手法を開発しました.基礎的かつ重要な研究であり,また発表も背景・手法・結果が明快であったことが評価されました.さらに今後の観測による手法の検証を期待し,優秀発表賞の授与を決定しました.
今年度の発表賞応募者は,どなたも研究の質は高く,総じて完成度の高い研究結果を発表されておりました.本審査のプレゼンテーションも非常によく練られていて図等もわかりやすくまとまったものが多いという印象でした.全く異なる分野の発表を同じものさしで評価するというのは非常に困難でしたが,特に惑星科学的な意義や将来性をうまく伝えられていた応募者が高く評価され受賞に至りました.予備審査・本審査いずれにおいても,1. 研究内容の科学的な質と独創性,2. 研究に対する選考対象者の貢献度と理解度,3. プレゼンテーションの技量 が評価対象でした.これに加え本審査では,4. 質疑における応答の的確性も評価対象でした.今回応募された方もそうでない方も,今後の参考にしていただければと思います.
学会賞選考委員一同,この発表賞が学生の皆さんの研究のモチベーションの一つとなり,さらに発表技術を向上させる契機となることを期待します.来年度応募資格をお持ちの方の積極的な応募を歓迎します.