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学会賞選考委員会委員長 百瀬 宗武
2024年度の最優秀発表賞・優秀発表賞には過去最多となる21名の応募がありました.提出された予稿に基づく予備審査を実施し,11名を本審査対象としました.そして,秋季講演会初日(9月24日)午前の最優秀発表賞選考特別セッションにおける口頭発表,及び,昼休みから午後にかけての個別質疑で構成される本審査を実施しました.審査員が共著や指導する立場にあった場合,その発表に対する評価は,参考データの扱い(予備審査時)もしくは不実施(本審査時)とし,公平性を担保しました.
同日夕方に開催した学会賞選考委員会による選考ならびに運営委員会での審議の結果,2024年度最優秀発表賞受賞者は,吉田有宏会員(総合研究大学院大学・国立天文台,講演題目「一酸化炭素分子輝線の圧力広がりを用いた原始惑星系円盤ガス面密度分布の精密測定」,共著者は野村英子さん,Enrique Maciasさん他)および神野天里会員(神戸大学,講演題目「大規模惑星形成N体シミュレーションで探る氷惑星の起源」,共著者は斎藤貴之さん,船渡陽子さん他)に決定しました.9月25日の日本惑星科学会第62回総会において授賞式が行われ,吉田会員と神野会員には,竝木会長から賞状と副賞5万円がそれぞれ贈呈されました.
また,2024年度優秀発表賞受賞者は,平井英人会員(東京工業大学,講演題目「有機物エアロゾル模擬物質の表面エネルギーと弾性率の温度依存性」,共著者は関根康人さん,筒井智嗣さん他)および福原優弥会員(東京工業大学,講演題目「原始惑星系円盤の鉛直シア不安定性とダストの共進化:微惑星形成と円盤観測への示唆」,共著者は奥住聡さん)に決定しました.9月25日の日本惑星科学会第62回総会において授賞式が行われ,平井会員と福原会員には,竝木会長から賞状が贈呈されました.
吉田会員は,原始惑星系円盤の観測研究で見過ごされてきたガス輝線の圧力広がりに注目し,惑星形成を考える上で最も基本的な物理量であるガス質量分布の高精度な導出を目指した研究を発表しました.自身が提案した手法を複数の円盤に適用し,これら円盤に対しガス質量を精度良く求めた点に加え,ガス惑星形成のタイムスケールや円盤ガス化学の一般的理解にも寄与するものです.原始惑星系円盤観測の結果を解釈する上で強力な手法を与えただけでなく,これらの意義をわかりやすくまとめたプレゼンテーションを高く評価し,最優秀発表賞の授与を決定しました.
神野会員は,スーパーコンピュータ「富岳」を用いたシミュレーションにより,微惑星ー惑星間相互作用による惑星移動(Planetsimal-Driven Migration)の様相を,惑星コアの成長も含めたセットアップで明らかにした研究を発表しました.先行研究の高精度化という枠を超え,複数の微惑星が一体で円盤を広範囲に動く可能性を示すなど,新たな進化の様相を解明しました.計算結果の印象的なプレゼンテーションに加え,より多数の計算,あるいは相補的手法による現象理解に向けた今後の発展可能性を高く評価し,最優秀発表賞の授与を決定しました.
平井会員は,低温環境下における物質の表面エネルギーというミクロな物性と,タイタンにおけるマクロな表層環境の特徴を結びつけることを目指した研究を発表しました.タイタンを想定したエアロゾル模擬物質の生成を起点に,原子間力顕微鏡やSPring-8を用いた複数の実験を通じ,赤道面付近にしか見られないタイタンの砂丘のような風成地形の形成を議論しました.ユニークな視点に基づき得られた成果に対する高い評価に加え,複数の実験手法を自ら追求しようとする姿勢のさらなる深化を期待し,優秀発表賞の授与を決定しました.
福原会員は,原始惑星系円盤中で微惑星形成の鍵を握るVertical Shear Instability (VSI)の発現条件を,ダストの大きさや空間分布と関連づけて統一的に理解しようとする研究を発表しました.VSI乱流によるダストの拡散と沈澱の釣り合いを探索するモデルを構築し,ダストが鉛直方向に拡散する状態と,VSI乱流が駆動せずダストが沈殿する状態の2つの条件を提示しました.この研究成果に対する評価に加え,原始惑星系円盤の観測で得られた結果の解釈や微惑星形成理論の発展に対するさらなる相乗効果を期待し,優秀発表賞の授与を決定しました.
今年度も応募者の発表レベルは高く,研究水準はもちろん,スライドデザイン等のプレゼン技術にも目を見張るものがありました.予備審査・本審査いずれにおいても,1. 研究内容の科学的な質と独創性,2. 研究に対する選考対象者の貢献度と理解度,3. プレゼンテーションの技量 が評価対象でした.これに加え本審査では,4. 質疑における応答の的確性も評価対象でした.本会のように多様な研究分野の参加者がいる場においては,限られた紙面や発表時間の中で研究内容を効果的に伝える構想力,相手に合わせた柔軟なトークやコミュニケーションが求められます.今回応募された方もそうでない方も,今後の参考にしていただければと思います.
学会賞選考委員一同,この発表賞が学生の皆さんの研究のモチベーションの一つとなり,さらに発表技術を向上させる契機となることを期待します.来年度以降も,多くの皆様の積極的な応募を歓迎します.