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最優秀研究者賞選考経過の講評

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選考経過の講評

2015年度選考委員会委員長 中村昭子(神戸大学)

日本惑星科学会2015年度「最優秀研究者賞」は2015年12月に募集要項を公表し,2016年2月に応募受付を開始しました.3月7日に応募を締め切り,3名の応募者がありました.

応募者3名について,研究業績,惑星科学への寄与,将来にわたって惑星科学会の中核となって活躍が期待できるか等について審査を行いました.5月2日に一次選考のための投票を行いましたが,その結果をみてこの時点で応募者を絞り込むことはせず,5月6日の選考委員会において改めて3名の方について議論し,その後投票を行いました.各委員の意見や投票結果の総合的な評価を比較したところ, 2名の方について優劣が付けがたく,両名を受賞者として運営委員会に報告するという結論に至りました.

受賞者

  氏名: 黒澤耕介(くろさわ こうすけ)
  所属: 千葉工業大学惑星探査研究センター
  候補者についての推薦書執筆者: 杉田精司(東京大学大学院理学研究科)

  氏名: 癸生川陽子(けぶかわ ようこ)
  所属: 横浜国立大学大学院工学研究院
  候補者についての推薦書執筆者:小林憲正(横浜国立大学大学院工学研究院)

 以下に,受賞者ご自身および審査委員による評価等を紹介します.

黒澤会員は,天体衝突現象の解明を目指し,特にエネルギー密度の高い領域で引き起こされる相変化・化学反応過程に対して,高速撮像計測,発光分光計測,質量分析といった複数の計測法を駆使した実験的研究を展開してきました.核融合用の高強度レーザーの利用で実現した秒速10 km 超の衝突で珪酸塩鉱物が実際に蒸発する現象を観測し,衝撃圧縮からの圧力解放過程のエネルギー収支において電子が持つ熱容量が重要となり,それゆえ標準的な状態方程式の予測値よりもずっと高い効率で珪酸塩が蒸発することを指摘しました.月形成巨大衝突後の原始月円盤の熱力学状態や天体重爆撃で発生する衝突蒸気雲の酸化還元状態の理解の見直しを促し,新たな研究の創成に繋がることが期待される成果です.さらには,原始地球大気への炭素質物質の衝突におけるシアン化水素の生成効率を衝突実験とレーザー照射実験を組み合わせて推定し,また,炭酸塩岩からの衝突脱ガス量を自ら開発した開放系気相化学分析法によりかつてない精度で計測しています.

このように,天体重爆撃が固体惑星の初期進化に与える影響の定量的評価の土台となる研究成果を挙げてきたことに加え,学会賞選考員会は,黒澤会員が,

  • 衝突実験に特有の困難を取り除くための測定法開発を意欲的に行い,それらを用いて世界に先駆けた研究を行っている点
  • 実験による基礎データの創出に加え,理論的な考察や計算機シミュレーションも行い,惑星大気散逸など天体規模での現象の理解に結びつける応用力を発揮している点
  • 幅広い視野を持って惑星科学の諸問題に挑戦し,国内外の研究者と複数の共同研究を推進している点
  • 衝突数値シミュレーションコード(iSALE)の国内ユーザーグループを立ち上げ,講習会や勉強会の開催により惑星科学コミュニティに貢献している点

を高く評価しました.これら,研究業績と研究に取り組む姿勢が惑星科学全体の発展に対して優れた貢献であり,今後の研究の拡がりと広い波及効果が期待されます.よって,黒澤会員を2015年度日本惑星科学会最優秀研究者賞の受賞者に決定いたしました.

癸生川会員は,太陽系始原物質である炭素質コンドライト中の有機物や模擬実験で生成した有機物の分光分析を主な研究手段として,太陽系の有機物の起源と形成過程の研究に取り組んできました.炭素質コンドライト中の有機物と層状ケイ酸塩の共生関係を解明し,また,異なるタイプの炭素質コンドライトと普通コンドライト中の不溶性有機物の分析をもとに母天体における水質変成および熱変成過程による分子構造変化を明らかにしました.一方,水質変成実験により,隕石に含まれる複雑高分子有機物と似た有機物を得ることに成功し,その生成速度を定量的に評価することで,隕石母天体や氷天体における有機物の進化の可能性を示しました.これらの研究は,太陽系有機物の初期進化について世界に先駆けた重要な貢献と位置づけられます.最近では放射光分析にも着手するなど,地球外有機物の化学状態や構造をさまざまな手法と角度から調べようとしています. 癸生川会員は,はやぶさ2キュレーションチームへの協力や,木星トロヤ群小惑星探査計画WGへの寄与など,始原天体のリターンサンプルの分析という日本がプレゼンスを持つ分野を支える人材としても存在感を示しています.

癸生川会員の,研究の質と国際的評価に加えて,学会賞選考委員会は,同会員が,

  • 太陽系有機物の初期進化に研究の焦点を絞り,太陽系小天体内部で起こりうる様々なプロセスによる物質進化に関して体系的に研究を行い着実に成果を出している点
  • 先駆的な分光分析技術を地球外有機物分析に応用するとともに,他の多様な分析法と組み合わせ有機物を多角的に解析している点

を特に高く評価しました.国内における地球外有機物の専門家は少なく,精力的に研究を進め成果を挙げられている癸生川会員は,これまでの研究業績と高い研究能力から,太陽系有機物研究分野における先導的な役割が期待されます.よって,癸生川会員を2015年度日本惑星科学会最優秀研究者賞の受賞者に決定いたしました.

2015年度,惜しくも受賞に至らなかった候補者も,最優秀研究者賞候補にふさわしい研究業績と将来性を持っており,今後とも日本惑星科学会の中核となって活躍が期待されます.今回惜しくも受賞に至らなかった候補者で資格を有する方のエントリは,候補者本人からの取り下げ申請がない限り自動的に継承いたしますので,よろしくお願いします.惑星科学会の若手研究者の皆さんには,研究成果を出し,その意義を学会員に広める啓発活動を重ね,最優秀研究者賞への積極的な応募をされることを期待しています.

2016年5月25日

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